静原夏樹(しずはらなつき)♂:
静原夏葉(しずはらなつは)♀:





夏樹「なぁ、夏葉」

夏葉「どうしたの?」

夏樹「俺らって、なんでこんなに似てるんだろうね」

夏葉「双子だからでしょ?」

夏樹「普通、男女の双子は二卵性双生児だからこんなそっくりに生まれるはずがないんだよ。
   世界的に数例だけ、一卵性での男女の双子もいるみたいだけどさ。
   それは結局そんな似てないらしいんだ」

夏葉「うーん・・・なんでだろうね」

夏樹「違いなんて利き腕の違いと声くらいで、普通にいれば見分けもそんなつかない。
   こんなことってありえるのかな?」

夏葉「ありえないなら、私たちはここにいないよ?」

夏樹「・・・ま、そうだね」


君に出会えた奇跡


夏葉「ねぇ!夏樹!あれみて!」

夏樹「お、可愛い服じゃん、夏葉に似合うよ」

夏葉「じゃぁ、夏樹の為に買ってあげるね」

夏樹「まて、俺は着ないぞ?」

夏葉「なんでー、いいじゃん。私に似合うってことは、夏樹だって似合うんだし!」

夏樹「そういう問題じゃない!いくぞ!」

夏葉「あ、まってよー!」



夏樹N「俺たち双子は、男女で生まれたにもかかわらず、そっくりに生まれた。
    ニュースでも取り上げられた事もある、おかしな双子だ。
    まるでいつも、鏡を見ているような気分になる。
    俺が右利きで、夏葉が左利き。
    それが余計に、鏡写しのように思える」



夏葉「お腹すいたねー」

夏樹「じゃぁ、そろそろなんか食べ行こうか」

夏葉「今日はー」

夏樹・夏葉「スパゲッティ」

夏樹「さっすが俺の妹」

夏葉「さっすが私の兄」


2人で軽く笑いあう


夏樹「それじゃ、この間オープンしたあのお店行ってみようか」

夏葉「そうだね。いこっ!」

夏樹「おいっ、走るなよ、こけるぞ!」



夏葉N「私達は、ほとんど全てが同じ。違うのは、身体と声だけ。
    夏樹はそう思ってるだろうけど、ほんとはそうじゃない。
    私には、夏樹に言ってない秘密がある。
    私だけの、誰にも言えない秘密」



夏樹「結構美味かったな」

夏葉「そうだね、でもコーヒーはあんまりだったかなぁ」

夏樹「あー、確かに。そこ残念だったな」

夏葉「でもカルボナーラ、美味しかったなぁ。また行こうね」

夏樹「おう。あ、次は奢れよ?今回は俺が出したんだから」

夏葉「気にしない気にしない!」



夏樹「あ、晩飯の材料買わなきゃ」

夏葉「そっか、お母さんたち今日明日はいないんだもんね」

夏樹「何作る?」

夏葉「それじゃー」

夏樹・夏葉「オムライス」

夏葉「さっすが私の兄」

夏樹「さっすが俺の妹」


軽く笑い合う


夏樹「それじゃ、ちょっと買ってくるから、本見たかったんだろ?見てきてていいよ」

夏葉「ん、ありがとねー、変なもの買わないんだよー!」

夏樹「わかってるって!」


夏葉「・・・そうだね、いつかは言わなきゃいけないんだろうな・・・
   言ったらどうするのかな。夏樹は・・・
   だめだめ!こんなこと考えなくていいから、今は楽しまなきゃね!
   さって、今日発売の新刊見に行かなくちゃ」


夏樹「あいつ・・・何悩んでるんだろうな・・・
   俺があいつの事わかんないなんてこれが初めてだよな・・・
   隠し事か・・・なんか隠すようなことあるのか?
   ・・・考えてもわかんねぇか。とりあえず買い物終わらせよう」



夏樹「買い忘れ・・・はないな」

夏葉「はい、よくできました」

夏樹「馬鹿にしすぎ」

夏葉「私の方が頭いいもーん」

夏樹「料理は全然できないけどな」

夏葉「ぶー。いいじゃんべつにー。夏樹が作ってくれるしー」

夏樹「いつまでも俺が一緒にいてやれるわけじゃないんだから。
   将来結婚したら旦那に作ってやれねぇぞ?」

夏葉「いーよーだ!!夏樹はずっと私といるんだもん!」

夏樹「だめだろそれは」


夏葉がくすくすと笑う。


夏葉「じょーだんだよ、料理作ってくれる旦那探すからいいもんっ」

夏樹「もらってくれる人がいるといいな」

夏葉「ひっどーい!あ、じゃぁ今日は私がつくるもんっ」

夏樹「あ、いや、ごめん、勘弁して」


2人で笑い合う


夏葉「それじゃ、ご飯期待してまってるね!」

夏樹「おう、まかせとけって」

夏葉「オムライスの他には何つくるの?」

夏樹「コーンポタージュとシーザーサラダかな。好きだろ?夏葉」

夏葉「うん!大好き!」





夏葉「ごちそうさまでしたっ!」

夏樹「お粗末さまでしたっと。じゃぁ、風呂沸かしてくるかな」

夏葉「私もこっち片付けておくね」


夏葉「さってっと・・・っと、電話だ。なつきー!でれるー?」

夏樹「まかせたー!」

夏葉「はいはーい・・・はい、もしもし静原です。あ、お母さん?
   うん。夏樹もいるから大丈夫だよ。心配しないで。
   ・・・大丈夫だよ。わかってるから。それじゃ」


夏葉、ため息。


夏樹「母さん、なんだって?」

夏葉「ちゃんとご飯食べたかー?とかそんなのだよ。
   私達だってもう高校生なんだからそれくらいできるっての」

夏樹「高校生だけどできないのが夏葉だから、母さん心配してるんじゃないか」

夏葉「うぐ・・・カップ麺くらいなら・・・できるもん・・・」

夏樹「それは料理って言わないの」

夏葉「うー・・・」


夏樹、軽く笑いながら風呂場へもどる。


夏葉「・・・よし、私も洗い物終わらせちゃおっと」



夏樹「なつはー、お風呂沸いた・・・って、座ったまま寝ちゃってるよ・・・」


夏葉のとなりにそっと座る。


夏樹「・・・男女の双子であり、そっくりな、世界初の例・・・か・・・
   何があったんだろうな、俺たち・・・
   俺も、お前に言えない隠し事、ずっと考えてるよ。
   ・・・これで、お互い様だろ?」



夏葉「ん・・・あれ・・・寝てた・・・?」

夏樹「おはよ。夏葉。よく寝てたね。もう12時すぎだよ」

夏葉「うそっ!4時間も寝てた!?」

夏樹「気持ちよさそうだったから起こさなかったけど、起こしたほうがよかった?」

夏葉「いや・・・大丈夫だよ。夏樹はお風呂入ったの?」

夏樹「俺はもう済ませたからあとまかせるよ。風呂でねるなよ?」

夏葉「うん・・・多分大丈夫・・・」


夏葉、お風呂へ向かっていく。


夏樹「・・・ほんとに大丈夫かなぁ・・・」


夏樹、呆れながら笑う。



夏葉「・・・なんか夢見てた気がするんだけどなぁ・・・
   んー・・・全然思い出せないや・・・
   あの事・・・なのかな。多分、そうだよね。
   忘れちゃおうか。そうしよう」


夏葉「あがったよー」

夏樹「おかえり。アイスでも食べる?」

夏葉「たべるー!」

夏樹「ほいっ」


夏葉「さっきね?変な夢見てたんだ」

夏樹「へぇ。どんな?」

夏葉「わかんない」

夏樹「わかんないって?」

夏葉「全然覚えてないんだよ」

夏樹「覚えてないのに変な夢ってなんだよ」

夏葉「わかんない」


2人で少し笑う。


夏樹「あー、でもそういえば最近俺も夢って覚えてないなぁ」

夏葉「見てないんじゃないの?」

夏樹「いや、なんか見てたっていうのはわかるんだけど、
   それがどんな夢だったかってのは全然わかんねぇ」

夏葉「きっと疲れてるんだね、お互い」

夏樹「かもな」


夏樹、苦笑い。


夏葉「おし、じゃあ私は寝るね。おやすみ」

夏樹「ん、おやすみ」




夏樹『ねぇ、夏葉』

夏葉『どうしたの?』

夏樹『俺らって、一卵性なのか二卵性なのか、聞いたことある?』

夏葉『あー、私は考えた事ないけど・・・どうなんだろうね』

夏樹『んー、やっぱおかしいよな。それでな、ちょっと調べようと思うんだ』

夏葉『え?』

夏樹『明日、調べに行ってくる』




夏葉「だめ!」


夏葉「あ・・・夢・・・?」


時計を見る。


夏葉「もう10時か・・・寝すぎちゃったな・・・
   ・・・あれ、夏樹は・・・」


夏樹「はい、戸籍謄本を、はい。お願いします」


市役所の椅子に座り込む。


夏樹「なんだろうな。なんでこんな事しようと思ったんだろ。
   バカみてぇ」

携帯がなる。

夏樹「もしもし、夏葉、起きたの?おはよう」

夏葉『今なにしてるの?』

夏樹「ん、ちょっと散歩がてらぶらぶらしてて、休憩してるとこ」

夏葉『・・・なんか隠してない?』

夏樹「何言ってんだよ。俺が夏葉に隠し事なんてするはずないだろ?」

夏葉『・・・そっか。ごめんね?』

夏樹「いいよ、謝らなくて。もうすぐ帰るから、のんびりしてな」

夏葉『うん・・・待ってるね』


夏樹「・・・あいつに嘘ついたの、多分これが初めてだな・・・」


受け取った戸籍謄本を眺める。


夏樹「・・・ごめんな」


市役所をでて、病院へ向かう。


夏葉「なんでかな・・・嫌な予感しかしないよ・・・」


夏葉「きっと・・・病院に向かってるはず。
   ううん。絶対向かってる。行かなきゃ・・・
   私が・・・言わなきゃ・・・!」



夏葉「(息を切らしながら)・・・夏樹!」

夏樹「なっ・・・夏葉・・・なんで」

夏葉「病院・・・行こうとしてたんだよね・・・」

夏樹「っ・・・やっぱ、夏葉には隠し事なんてできないか・・・」

夏葉「なんで・・・?なんでそんなことするの?
   いいじゃない!私達がどうやって生まれたかなんて!関係ないよ!
   今私達はこうやってここにいるんだから!」


夏樹「・・・やっぱり、夏葉は知ってるんだな。俺たちの真実」


夏葉「っ・・・やめてよ・・・言わないで・・・」

夏樹「・・・確かめなきゃ、いけないんだよ」

夏葉「なんで・・・いいじゃない!私達は今までどおりで!」

夏樹「おかしすぎたんだよ!俺たちみたいなのはありえない。
   一卵性で生まれてくる男女の双子は極稀にある。でもそれは似てないんだ。
   二卵性であればまずこんなに容姿は似ない!」

夏葉「・・・」

夏樹「もう・・・わかっちゃったんだよ・・・」


夏樹「俺たちは養子扱いになってる。それは、まぁいいとする。
   そして、本命はこっちだな。
   静原夏音(なつね)。これは、俺なのか。お前なのか」


夏葉「・・・見ちゃった・・・んだね・・・」

夏樹「それを確かめなきゃいけないんだ・・・ごめん、夏葉」


夏葉「・・・ついてきて」

夏樹「え?」

夏葉「いいから!」



夏樹「ここは・・・?」

夏葉「ここはね、私達が、私達を願った場所」

夏樹「・・・?」

夏葉「私達はね、もともと、1人だったんだ」

夏樹「・・・それが、静原夏音か」


夏葉「夏音はね、私達、双子で生まれるはずだったんだ」

夏樹「・・・は?」

夏葉「私達、本当に双子だったんだ。生まれるてくるまでは」

夏樹「・・・バニシング・ツイン、だっけか」

夏葉「そう。よく知ってたね」

夏樹「つまり、俺たちは2人だったけど、どちらかがいなくなった。
   そして夏音という1人になった、ということか」

夏葉「うん。それでね、夏音は寂しかったんだ。
   自分が双子だった、なんてことも知らないはずなのに何かが足りないみたいでね。
   あるとき、偶然、ここに来て願ったの。
   そしたらね、何故か、こんな事になった。
   私に夏音の記憶が、夏樹には夏音の性別が乗った。
   そして、夏音という個人は消えてしまった」

夏樹「なっ・・・そんな・・・母さんたちは・・・?」

夏葉「どうして私達を受け入れてるのかはわからないけど・・・
   きっとバニシング・ツインを経験したことを悔やんでたんだろうね。
   だから養子ということにして、私達を育てることにした」


夏葉「でも、夏樹がこれに気づいちゃったから、もう、終わりだね」


夏樹「・・・は?」


夏葉「もう、私が消えちゃうみたいだから」


夏樹「え、消えるって・・・なにいって・・・は?」

夏葉「夏音に、もどるみたい。今までありがとね!
   あ、でも、1人に戻っても、私は夏樹の中に生きてるよ!」

夏樹「まっ・・・なんでだよ!なんでそんなことになるんだよ!」

夏葉「出会えるはずのなかった、双子の私の兄。
   君に出会えた、期間限定の奇跡の時間だったんだよ」

夏樹「・・・嘘・・・だろ・・・」

夏葉「あ、もう時間みたいだね」

夏樹「っ!やめろ!消えるな!夏葉!」

夏葉「大丈夫。夏樹の・・・ううん。夏音として、また一緒になるだけだから」

夏樹「そんなのいやだ!俺たちは一緒にいないと!」

夏葉「・・・私だって一緒にいたかった!でもそんなの叶わないの!
   所詮は作られた幻想の存在なの!鏡を見てるのと同じなんだよ!
   だから・・・夏樹。私の分まで、幸せになってね・・・!」


夏葉、消える。


夏樹「・・・夏葉・・・ん・・・ああ・・・これが夏音の記憶か・・・
   あの夢・・・夏音のだったんだな・・・
   ははは・・・なんだろ・・・涙・・・とまんないや・・・」



夏樹「ねぇ、夏葉・・・俺どうすればいいんだよ・・・お前がいなきゃ・・・ダメなんだよ・・・」

夏葉『大丈夫だよ。元に戻っただけだもん。1人じゃないよ』

夏樹「っ・・・そっか。俺の中にいるんだよな・・・1人になった訳じゃ、ないんだよな・・・」

夏葉『うん。私達は、いつまでも一緒にいるの。言ったでしょ?
   ずっと一緒にいるんだ、って』

夏樹「はは・・・そうだったな・・・これからも、よろしくな!」



夏葉『ずっと言えなかった、私の秘密。
   こんな一瞬で夏樹にバレるなんて思わなかったな。
   今まで楽しかったよ。夏樹!
   これからは、夏音として2人でずっと一緒にいようね!』



Fin






後書き。

初めまして。くぅ汰と申します。
今回、台本執筆企画「鏡」というお題で書かせていただきました。
これが初めての台本だったのですごく怖くて…!
「鏡」というお題で最初に浮かんだのは「本音と建前」「双子」の二種類でした。
両方とも書いて行ったんですが、本音と建前は自分で納得がいかずに削除となりました。
で、双子を書いていったんですが・・・
やってみていかがでしたでしょうか?
私なりに精一杯書いてみました。
これをやって、楽しんでいただけたのなら、私としては光栄です。
それでは、失礼します。