宮原悠真(みやはらゆうま) ♂ 27歳
榎本結衣(えのもとゆい)  ♀ 19歳
沢口英梨(さわぐちえり)  ♀ 38歳(被り推奨)




結衣「ねぇ、先生」

悠真「どうした?」

結衣「もうすぐ七夕だね」

悠真「そうだな。あと4日だな」

結衣「お祭り、行けるかな?」

悠真「調子がよかったらな」

結衣「毎年そう言ってるよね。最近は元気だよ?
   私一回も行ったことないんだし・・・だめ?」

悠真「その日の天気と、お前の体調次第だよ」

結衣「ちぇっ・・・10代最後の七夕、お祭りくらい行きたいなぁ」

悠真「じゃぁおとなしくしてろ。ほら、薬飲んで今日はもう寝ろ」

結衣「はーい」


星海の灯火


結衣「いい天気だね!先生っ!」

悠真「そうだな。暑くていやになる」

結衣「そう?私は暑いの好きだよー」

悠真「汗かくし日焼けするじゃないか」

結衣「女の子かっ」

悠真「うるせぇな。肌弱いんだよ。日焼けするといてぇんだ」

結衣「先生白いもんねぇ」

悠真「いいだろ別に。ほら、体温測るぞ」

結衣「今日はねー。36度4分!」

悠真「はかれ」

結衣「・・・はーい」

悠真「よし、いい子だ」

結衣「ねぇ、先生」

悠真「ん?どうした?」

結衣「広場で笹が用意されてるよ」

悠真「お、ほんとか。まぁ、明々後日だもんなぁ」

結衣「今年はなんとしても行きたいんだよねぇ」

悠真「昨日の夜も言ってたな」

結衣「だってだって!10代最後だよ!?もう6年も行ってないんだよ?
   ずっと入院してるからさぁ」

悠真「俺が来てからお前が七夕の時に特別調子よかった時なんてなかったしな。
   6年前って言ったら、お前が入院したその年か」

結衣「うん。学校にも中二から行ってないから、まさかの中卒ニートだよ」

悠真「まぁ学校に通える体力なんて残ってないもんな。
   でも俺が勉強教えてやってるだろ?
   中卒だとしてもお前の学力は東大にだって入れるレベルだぞ」

結衣「それはないでしょ流石に」

悠真「ネタで教えたフェルマーの最終定理をしっかり理解してる19歳もそういないぞ」

結衣「どやぁ!」

悠真「ドヤ顔できる事だよほんとに」

結衣「勉強は好き。私にできる数少ないことだからね」

悠真「・・・大丈夫さ。必ず俺が治してやる。昔みたいに動けるようにしてやる」

結衣「期待してるよ。ゴッドハンドさん」

悠真「そんな呼ばれ方した事ないけどな」

結衣「若き天才医師とは言われてるけどね」

悠真「過大評価だよ」


悠真、ため息



結衣「でも、ほんと先生には期待してるからね。楽しみにしてるよ。七夕を」

悠真「まぁ、今のままいけば今年は出られそうだけどなっと・・・おし、平熱だな」

結衣「あたってた?」

悠真「36度6分。おしかったな」

結衣「ニアピン賞でなにかくれるってききました」

悠真「デコピンでもしてやろうか?」

結衣「ひっどーい!そんなだからその年まで独身なんだよ?」

悠真「うっせー」

結衣「彼女もいないんでしょ?大丈夫?」

悠真「・・・まぁ、7日に元気に祭り行きたいなら、今日明日大人しくしとけ。
   じゃ、他の患者さんとこ行ってくるから」


悠真、部屋から出る。



結衣「あ・・・逃げたか」





悠真「・・・ふぅ」

英梨「宮原先生、お疲れ様です」

悠真「っ・・・びっくりした、お疲れ様です。院長」

英梨「あの子はどうですか?」

悠真「今の処は順調です」

英梨「そう、それはよかった。あの子は毎年七夕を楽しみにしてるのよ。
   でも、行かせてあげられてないからね。今年こそ、行かせてあげたいわね」

悠真「ええ・・・なんとかしてみせますよ」

英梨「頼もしい限りね・・・あ、そうだ。宮原先生」

悠真「はい、なんでしょうか」

英梨「今週末、少しお話があるので院長室に来てくださいね」

悠真「はぁ・・・週末ですか。わかりました」



英梨、軽く笑って去る。



悠真「今じゃダメだったのか?・・・まぁ・・・いいか」


呟いて、立ち去る。





――ノック音


結衣「どうぞー」

悠真「消灯時間はすぎてるぞ」

結衣「動いてもないのにそんな早くに寝れると思うの?この私が」

悠真「俺の知る限り寝てた事は数える程しかないな」


結衣、苦笑い


悠真「それで、今日は何してたんだ?電気もつけずに」

結衣「外」

悠真「外?」

結衣「星を見てたの。ほら、夏の大三角形。
   デネブは丁度雲に隠れちゃってるけど、ベガとアルタイルはよく見えるよ」

悠真「織姫と彦星だな」

結衣「すごくどうでもいいことなんだけどさ」

悠真「ん?」

結衣「ベガが男性っぽい名前なのに織姫で、アルタイルが彦星なのはなんでなんだろうね」

悠真「語源のあたりから説明してやろうか?」

結衣「めんどくさいからいいや」

悠真「なんだそれ」


2人、軽く笑い合う。


結衣「織姫様と彦星様が会ってる時、デネブはどんな気分なんだろうね」

悠真「三角関係だったりしてな」

結衣「逸話だと2人はラブラブだけど、三角形ってとこ考えるとそれも楽しそうだよね」

悠真「楽しくはないだろ。大惨事だ」

結衣「あはは。そうだね」


結衣、ため息


結衣「・・・入院してからさ。夜は、外に出た覚えがないんだ」

悠真「まぁ、出られないようにしてるからな」

結衣「もう一度、この窓から見える空じゃなくて、真上を見上げて広がる星空を見たいんだ。
   星々の海に散らばる灯火を、視界いっぱいに見たいんだ」

悠真「・・・」

結衣「でね?その日はやっぱり七夕がいいなって思うんだ。
   この街じゃ、七夕って特別でしょ?
   だからその特別な日に、できるようになった事をしたいなって」

悠真「そうか」

結衣「だからせーんせっ!明々後日。楽しみにしてるよ!」

悠真「はいはい。明日明後日、それで当日体調がよければな」

結衣「だいじょうぶだよー」

悠真「確率をあげたいなら、早く寝とけ」

結衣「はーい・・・」

悠真「よし、おやすみ」

結衣「あ、せんせっ!」

悠真「ん?」

結衣「短冊、用意するの忘れないでね?」

悠真「はいはい。ちゃんと明日にでも持って来といてやるよ」

結衣「うん。それじゃぁおやすみなさい」

悠真「おやすみ」


悠真、部屋からでる。


結衣「・・・もう行った・・・よね」


軽く咳き込み、もう一度外を見る。


結衣「大丈夫だよ・・・これくらいの体調不良、なんてことないもん・・・」





悠真「・・・っ!?榎本!?」

結衣「せん・・・せ・・・?おは・・・よー」


結衣、息絶え絶えに言う。


悠真「いつからだ!」

結衣「なんの・・・はなし・・・?」

悠真「いつから発作が始まってたんだ!」

結衣「発作なんて・・・おきて・・・ないよ・・・元気・・・だよ・・・」


結衣、辛そうに笑みを作る。


悠真「クソッ・・・進行具合からして・・・昨日の夜の時点で隠してやがったか・・・!
   ・・・仕方ない・・・いいか榎本。よく聞け」

結衣「・・・?」

悠真「これからすぐに手術の準備をする。前に言ったが、成功率は高くない。
   けど、手術が成功すれば、確実に回復に向かうんだ。
   お前の両親の許可は得ている。あとは・・・お前が望むかどうかだ」

結衣「・・・私・・・死んじゃうのかな・・・やだな・・・」

悠真「死なせない。その為に俺がいるんだ。
   榎本、俺を信じろ」

結衣「せんせ・・・わかっ・・・たよ」


小さく笑って、意識を失う。
真剣な表情で、結衣を見つめる悠真。


悠真「必ず成功させる。明後日、行くんだもんな?
   ・・・宮原です。榎本結衣の容態が急変、オペの準備を・・・」




結衣『ねぇ、先生。ちょっとロマンティックな話していい?』

悠真『理系一直線のお前が珍しいな』

結衣『そんなことはなくない?
   ・・・まぁ、昔おばあちゃんが死んじゃった時にね、お母さんに言われたんだ。
   おばあちゃんは星になって、結衣の事を見守ってるんだよーって』

悠真『そんな言い聞かせあったな』

結衣『・・・私も死んだら、星になりたいなぁ。
   あの星の大海を照らす灯火の一つになれるかな』

悠真『・・・さぁな』

結衣『・・・せんせー、ここはロマンティックにかっこよく「なれるさ」とか返すべきだと思います』

悠真『死んだ後の事なんてしらねぇよ。お前が死ぬのは、俺よりずっと後だ』

結衣『私はこんな病気なのに?』

悠真『俺が治す。なにせ、俺は天才だからな』

結衣『ふふっ・・・期待してるね、先生』




悠真「ふぅ・・・」

英梨「宮原先生、お疲れ様でした」

悠真「院長・・・ありがとうございます」

英梨「流石の手腕で。この難しいオペの成功、おめでとうございます」

悠真「成功はしましたが・・・約束を果たせるかどうかは彼女次第でしょうね」


英梨、目線を逸らす。


英梨「・・・宮原先生、今回のオペを、ドイツのドクターが見ておられました。
   絶賛していましたよ。凄い技術だ、と。
   そして、ドイツへ研修にこないか、と」

悠真「・・・は?」

英梨「疑問形ではあったけど、断ることはできないわね。
   医学会の権威よ。彼は。
   ・・・あの子の事は私にまかせて、ドイツへ行きなさい。
   院長命令よ」

悠真「そんな・・・!突然すぎます!」

英梨「貴方には話してなかったけど、前から決まってた事なの。
   出発は8日の朝の便にまではずらしてあげたから。
   ・・・ごめんなさい、私にはそれだけしかできなかった」

悠真「院長・・・わかり・・・ました・・・失礼します・・・」


悠真、立ち去る。


英梨「本当に・・・ごめんなさい・・・結衣・・・」




結衣「・・・ん・・・」

悠真「目が覚めたか。おめでとう」

結衣「・・・私・・・生きてるんだ・・・」

悠真「言っただろ?俺が必ず助けるって」

結衣「ははっ・・・先生・・・流石だね・・・」

悠真「目覚ますまで丸一日あって焦ったけどな」

結衣「ってことは、もう6日なのか・・・明日、私行けるかな・・・」

悠真「・・・大丈夫だ。なんとか連れてってやるよ」

結衣「うん・・・ありがとっ」





結衣「うわー!すごい出店の数だよ!ほら!先生!」

悠真「そーだな。とりあえずわたがし持って振り回すな。危ない」

結衣「えへへー、ごめんなさーい」

悠真「外出時間は限られてるからな。さっさと中央まで行くぞ」

結衣「それは先生が車イス押す速度次第だよ?」

悠真「・・・全速力で走ってやろうか」

結衣「やめてくれると嬉しいな?」


2人で笑い合いながら広場へ行く。


悠真「おー、今年も結構ついてるなぁ」

結衣「あ、そこに短冊あるのか・・・準備してくる必要なかったなぁ」

悠真「ほら、吊るしてやるから、貸しな」

結衣「やだっ。願い事見られるもん」

悠真「じゃぁ下の方にでもつけるか?」

結衣「でもやっぱ・・・高いとこがいいな」

悠真「じゃぁ貸せ」


悠真、結衣から短冊を取る。
ふと、目に入る。


悠真「・・・榎本、お前・・・」

結衣「・・・せんせ、ドイツ行っても頑張ってくださいね・・・」

悠真「知ってたのか・・・?」

結衣「院長・・・お義母さんから聞いた」

悠真「・・・そうか・・・」


悠真、そこからは何も言わず、短冊を吊るす。
一緒に自分のものも吊るす。


結衣「それで、先生はなんて書いたの?」

悠真「いうわけないだろ」

結衣「ちょっ、酷い!?」

悠真「ほら、帰るぞ。この星空、しっかり目に焼き付けろよ」

結衣「わっ、先生!?まってよ!まだものたりないよーーーー・・・」


結衣『先生が、無事帰ってこれますように――」

悠真『ただこの子が、幸せな未来を築けますように――』




―――

悠真「・・・何やってんだ?こんな広場で一人で」

結衣「・・・今日は七夕でもないし、お昼だし、織姫と彦星だって1年に一度はあえるんだよ?」

悠真「そーだな。俺はロマンチストじゃないんでな」

結衣「3年間はちょっと長かったなぁ・・・」

悠真「悪いな。待たせた」


結衣「おかえりっ。私の彦星さまっ」




Fin




こちらの台本は
コンピレーション企画「星を見る夜 〜願いを短冊に乗せて〜」にて
書かせて頂いたものです。
他の参加者様の台本はこちらへ。