赤原悠斗(あかはらゆうと)♂:
坂下美里(さかしたみさと)♀:




悠斗「…なんですか?」

美里「ですから、今、お一人ですか?」

悠斗「ええ…まぁ…一人だけど…」

美里「そうですか、それでは、今お暇ですか?」

悠斗「…なんの勧誘ですか」

美里「私とお付き合いしてください」





悠斗「…は?」

美里「だから、今日一日私に付き合ってください」

悠斗「え、いや、なんで?」

美里「私も一人だからです」





美里「一件だけでいいんです!愚痴聞いてもらえるだけでいいんです!
   お願いします!クリスマスの夜に一人なんてさみしいんでお願いします!」

悠斗「え…あ…はい…」

美里「ありがとうございます!では、バーにでも行きましょう」




1×1のクリスマス




悠斗「で、君みたいな子がなんでこんな初対面の男を飲みに誘ったのかな?」

美里「さっき言ったじゃないですか。クリスマスの夜に一人とか寂しくて死んじゃいそうだったので」

悠斗「…」

美里「それで、たまたま通りかかって、顔もまぁまぁいい貴方に声をかけてみたんです」

悠斗「…どうなの?それ」

美里「いいじゃないですか。私が誘ったんだし、奢りますから」

悠斗「いや、それは悪いから自分のくらい出すよ」

美里「いいですから。私、こう見えてお金持ってるんですよ?」

悠斗「そういう問題じゃなくてだな…」

美里「マスター、ソノラお願いします!」

悠斗「…結構きついカクテルじゃないっけ?」

美里「お酒は強いんですよー」

悠斗「まぁ…それならいいけどな。ところで、君の名前は?」

美里「あ、美里です、坂下美里って言います」

悠斗「坂下…美里…ね。俺は…赤原悠斗だ」

美里「…うん。それで、悠斗さんは何を飲まれますか?」

悠斗「じゃあウィスキーのロックを…あ、スコッチでお願いします」

美里「あら、悠斗さんもいける口ですか」

悠斗「仕事柄、付き合いで飲んでるからな。っと、ありがとうございます」

美里「それじゃ、乾杯」

悠斗「乾杯」


グラスに口をつける程度の間


悠斗「で、クリスマスイブの夜にあんなとこで一人で何してたのさ」

美里「あー。リア充を消し去ろうと思って演技してました」





悠斗「…え?」

美里「カップルが歩いてるじゃないですか」

悠斗「うん」

美里「彼女が彼氏の名前呼んだりするじゃないですか」

悠斗「…うん」

美里「それで名前を聞いたら、例えば悠斗さんだとすると…
   悠斗…誰よそれ…こんなのひどいよっ!
   って言って走って逃げるんです」

悠斗「人として最低だな」

美里「リア充撲滅委員会のメンバーですから」(楽しそうに

悠斗「ああ…そう…」

美里「実際3組程喧嘩になってましたしねぇ」

悠斗「こいつ鬼だ、本物の鬼だ」

美里「失礼な。私なんて可愛いものですよ。会長なんて今頃…いえ、なんでもありません」

悠斗「気になる言い方だなおい」

美里「そんなことより!なんで私はこんな日にぼっちなんですか!」

悠斗「知らねぇよ。彼氏つくればいいじゃねぇか」

美里「私にできると思いますか?」

悠斗「あー…まぁ美人だとは思うし」

美里「ナンパですかそういうのやめてください」

悠斗「ナンパされたのは俺の方だがな」

美里「確かに外見はそこそこいいかもしれませんが、外見しか見ない男なんて滅んでしまえばいいんです」

悠斗「なんだよ、トラウマでもあるのか?」

美里「すこぉぉぉぉぉぉおし女の子らしくない一面をみると、すぐに振るような奴らは最低ですよ」

悠斗「まぁ…それは最低だな。外見しか見てなくて内面に目を向けたら好みと違うからって別れるなんて」

美里「そうですよ!ほんっとにすこぉぉぉぉぉぉおしだけなんですよ!?」

悠斗「…ちなみに、自分で思う女の子らしくないところってどこだ?」

美里「…まず、料理ができません」

悠斗「まず?」

美里「部屋が片付けられません」

悠斗「あー、いるよなぁ」

美里「格闘技やってます」

悠斗「なにそれかっこいい」

美里「柔道でオリンピックの代表候補に選ばれたこともあります」

悠斗「純粋にすげぇな…」

美里「まぁ他にも色々あるんですけど…」

悠斗「うん。後半はともかくとしてとりあえず、俺とお前の少しがだいぶ違う、ということはわかった。
   つまりあれだ。いわゆる女子力がないんだろ?」

美里「そうなんですよ…すこぉぉぉぉぉぉおしだけですけど」

悠斗「現実を正しく受け入れろ」

美里「むぅ…」

悠斗「最近は女子力…ってか生活力高い男が多いからな。
   せめて料理くらいはできてほしい、って考える奴も多いし、致命的かもな」

美里「私だって頑張ってるんです!」

悠斗「いや、まぁ、それは置いとこうか」

美里「うー…マスター!カジノ!」

悠斗「まーた強いお酒を…てかよく知ってるなそんなお酒。
   酒豪の女の子ってのも女子力云々としてはどうかと思うぞ?」

美里「酔ってません!」

悠斗「いや、酔ってるとか聞いて…ああ、一杯で酔ってるのか…
   なんでわざわざそんな強いお酒を飲むのかな…」

美里「私だってほんとは職場の同僚と一緒に飲みに行くはずだったんです!
   それなのに…優子の奴…!」

悠斗「あー、彼氏できて予定変更、って感じか…」

美里「悠斗さん!お酒が進んでませんよ!」

悠斗「あー、はいはい…マスター、バレンシア」

美里「ばれんしあぁ!?そんな女の子みたいなの飲まないでください!
   マスター、彼にアカシアとかアースクエイクとか、とにかく度数高い奴を!」

悠斗「あほか、すみません、気にしないでください」

美里「酔ってません!」

悠斗「酔ったのはわかったから…ったく…何が酒強いだよ…
   あ、すみません。バレンシアなしで、彼女にサンドリヨンあたりを。
   ああ、カジノは俺が飲みますんで」

美里「間接キスねらいですかー?案外肉食系ですねー」

悠斗「お前にこれ以上飲ませるとめんどくさい事になりそうなんでな」

美里「なんですかその言い方はー!」

悠斗「既にめんどくさいんだよ」

美里「そんなこといいながら付き合ってくれる悠斗さんは優しいですねー」

悠斗「赤の他人に無理やりバーに連れ込まれた挙句、愚痴られてるのを受け入れてる自分にびっくりだ」

美里「そういう素養があるんですよー!」

悠斗「嫌な素養だな畜生」



美里「あーあ。どこかに私の王子様いないかなぁ」

悠斗「急にメルヘンだな。水飲むか?」

美里「マスター、シャンパン開けましょうシャンパン」

悠斗「もうこいつの言うことは無視してください」

美里「いいじゃないですかー!クリスマスですよ!?シャンパンは必須じゃないですか!」

悠斗「お前みたいなのはシャンメリーでも飲んでろ」

美里「あー、でもシャンメリーもおいしいですよねー」

悠斗「うん。お前にはお似合いだよ」

美里「マスター!カフェパでいいんで!」

悠斗「落ち着け。ついでにカフェパはシャンパンでもシャンメリーでもないぞ」

美里「むぅー」

悠斗「ふぅ…マスター、スノーホワイト二つお願いします」

美里「おー、おしゃれさんですねー」

悠斗「クリスマスだしな。これ飲んだら帰るぞ」

美里「えー?ゆっくりしましょうよー」

悠斗「俺は明日も仕事なんだよ」

美里「…もうちょっとだけ、こんな馬鹿してたいんです」





美里「4歳の時のクリスマスでした。両親が事故で亡くなったんです。
   同じ職場で務めてて、一緒に帰ってる時に車がスリップして、らしいです。
   近い親戚もいなくって、突然2歳上のお兄ちゃんと二人きりです。」

悠斗「…」

美里「施設ではクリスマスにもみんなでケーキ食べたりしてたんですけど、私が来たせいでそれもささやかなものになって。
   それに気づいたのは小学校2年生の時…施設での3回目のクリスマスでしたね。
   そこからは「もう気にしてないよー」って感じで、クリスマスにはずっと馬鹿みたいに騒いでました。だからクリスマスは、今でも馬鹿してたいんです。
   まぁ立ち直れたのはお兄ちゃんがいたからなんですけどね。
   何年も前に施設を出て、もう連絡先もわからないですけど」

悠斗「そっか」

美里「…初対面の人にこんな迷惑かけた事はないんですけどね。
   ああはいったけど、なんだか悠斗さんを見たとき懐かしい感じがして、甘えたくなっちゃったんです」

悠斗「…まぁ、甘えるくらいは構わないけどな」

美里「…ごめんなさい、突然こんな辛気臭い話にしちゃって」

悠斗「気にすんな。酔っ払いの戯言として聞き流しとくさ」

美里「ふふっ…ありがとうございます。優しいんですね。悠斗さん」

悠斗「…さて、丁度酒もきたし、改めて乾杯でもするか」

美里「そうですね。それじゃあ…うん。
   悠斗さんに出会えた、このたった一度きりの素敵な夜に」

悠斗「…意味のわからない美人に絡まれた、くそったれの夜に」


2人、意味もなく少しだけ笑う。


2人『乾杯』




美里「今日はありがとうございました。少し気が紛れました」

悠斗「おう、こっちこそ。それなりに楽しかったよ」

美里「クリスマスの寂しい夜を一人で過ごさずに済んでよかったですよ」

悠斗「1×1…ひとりひとりのクリスマスって感じだったけどな」

美里「まぁ…それもそうですね」


2人、軽く笑い合う。


美里「さって、それじゃあ私はこれからどうしようかな。おとなしく帰るか…続きを始めるか」

悠斗「タクシー代くらいだしてやるから、ちゃんと帰れよ」

美里「それはいらないですよ。…悠斗さん、うち来ます?」

悠斗「アホ、なんでそうなるんだよ」

美里「美人の誘いを断るんですかー?これだから草食系は…」

悠斗「出会って一日でそんな事するような軽い男じゃないつもりなんでね。
   しかもそれ自分で言うことじゃねぇぞ」

美里「あれあれあれ?家にくるか聞いただけなのに何を想像しちゃったんですかねー?」

悠斗「…さっさと帰れ。アホ」

美里「あははっ、悠斗さん可愛いなぁ」

悠斗「黙れ酔っ払い」

美里「…あの、悠斗さん、これを」

悠斗「ん?」

美里「私の携帯番号です。もし、気が変わったりしてまた連絡取りたいな、なんて思ったりしたら、かけてきてください」

悠斗「…おう」


美里、手を挙げてタクシーを停める。


悠斗「気をつけてな」

美里「悠斗さんも、変な美人さんにひっかからないように気をつけてくださいね!」

悠斗「お前以上に変なやつはそういねぇよ。美里」

美里「…やっと名前呼んでくれましたね。それでは、また…
   機会があれば、またお会いしましょう」

悠斗「…ああ、機会があればな」


タクシーに乗り込み、走っていく。
それを無言で見送る悠斗。
ポケットから煙草を取り出し、火をつける。


悠斗「ん…?雪…か」


大きく溜息。


悠斗「…ひっさしぶりに楽しいと思える一日だったな…」



悠斗「…最高のクリスマスプレゼントだったよ。だからこそ…
   これ以上は望んじゃいけないんだよ」


もらった紙に火をつけ、燃やす。


悠斗「また会えるかどうかもわかんねぇけど、元気でな」


呟いて、街を歩き出す。


美里「…あ…雪だ…終わった後にホワイトクリスマスかぁ…
   こういうのも、なんだかロマンティックだよね」


タクシーの中で、そっと呟く。


美里「ありがとね…お兄ちゃん」



2人『メリークリスマス』





fin





後書き

くーりすーまーすーがーこっとっしっもっやーってくるー。
どうも。甘宮くぅ汰です。
季節台本、1×1のクリスマスでした。
去年は間に合わずに諦めた作品ですが無事間に合ってよかったですます。
クリスマスなんて…忙しいだけです。仕事です。
クリスマス中止にしてください。
ごめんなさい黙ります。
この台本を手にとってくださってありがとうございました。
楽しんでいただけなのなら、私は光栄です。
それでは、失礼します。